シナリオプランニングにおける「良い悩み」と「良くない悩み」【Stylish Ideaメールマガジン vol.275】
シナリオプランニングは、不確実な未来のことを考える手法です。
「未来」のことを考えるということは、正解かどうかを確かめることができないので、なかなか簡単なことではありません。
しかも、シナリオプランニングでは、単なる「未来」ではなく「不確実な未来」なので、難易度はもっと高くなり、取り組む過程のさまざまな場面で悩むことが少なくありません。
そういう時に「不確実な未来のことを考えることは、モヤモヤするものなので、今の状態は悪い状態ではありませんよ」と声がけをされたりすることがあります。
(実際、自分が本格的にシナリオプランニングに取り組む前に体験したとき、似たようなことを言われました)
しかし、厳密に言えば、不確実な未来のことを考えるから、モヤモヤする、悩むのが当たり前、というわけではありません。
さまざまな場面でのシナリオプランニングの取り組みにかかわってきて、シナリオ作成には「良くない悩み」と「良い悩み」があることに気がつきました。
話をわかりやすくするために、ここでは複数の軸をつくり、それらを組み合わせ、複数シナリオを作成する場面に絞って考えてみます。
「良くない悩み」とその状況へのかかわり方
複数シナリオを作成するときの「良くない悩み」はシナリオプランニングの理論や手法に関する悩み、モヤモヤしている状況です。
例えば、シナリオプランニングの手法としては適切ではない軸のつくり方をしてしまい、それでなんとか複数シナリオをつくろうとして悩み、モヤモヤしている場面は「良くない悩み」に相当します。
もし、みなさんがファシリテーターなどの立場でシナリオプランニングの取り組みにかかわっている場合、このような理由で悩み、モヤモヤしている人やグループを見かけたら、なるべく早いタイミングで、シナリオプランニングの考え方に照らしてそのモヤモヤしている状況を解消する働きかけをするのが良いでしょう。
(もちろん、悩み、モヤモヤしている状況を当人たちが自力で解消していくことも大切なので、どのタイミングが適切なのかは、その取り組みの目的などに応じて判断する必要はあります)
「良い悩み」とその状況へのかかわり方
一方、複数シナリオを作成するときの「良い悩み」はどの軸の組み合わせにすると、自社にとってより考える意義のある複数シナリオになるのかを悩み、モヤモヤしている状況です。
先ほどの「良くない悩み」とは違い、シナリオプランニングの考え方には沿っていて、軸などは適切につくれたとします。
しかし、適切な軸がつくれたとしても、どの軸を選ぶことが、自社にとって意義があるかはさまざまなことを考慮しなければいけません。
例えば、自社の既存の事業が今後の環境変化によりどのような影響を受けるのかを考えたいと思い、シナリオプランニングに取り組んでいるとします。
自社の既存事業に影響を与える環境変化は、通常、ひとつやふたつではないでしょう。
自社に与える影響が大きい軸はたくさんあるはずです。
そのようにたくさんある軸の候補の中から、どの軸を選ぶのかという判断基準もたくさんあるでしょう。
複数の既存事業の収益性を元にするというように事業に関する定量的な基準を設けることもできます。
競合企業や新規参入企業の動きを想定して考えるという方向性もあるかもしれません。
あるいは、既存の自社の組織文化やメンタルモデルに目を向けて、自分たちにとって「当たり前」だと思っているようなことを別の角度から見るためにどの軸を選べば良いのかと考えることもできます。
このように軸にしても、それを選ぶ判断基準にしても、さまざまなものがある中で、どれを選ぶのかは、非常に悩ましく、モヤモヤすることです。
しかし、この悩みは、現在のような不確実な時代に経営や事業、人事などの意思決定をしていく際には欠かせない悩みでもあります。
そこで、みなさんがファシリテーターなどの立場でシナリオプランニングの取り組みにかかわっている場合、このような理由で悩み、モヤモヤしている人やグループを見かけたら、まずは、ハッキリと
「これは悩むべきタイミングですよ」
とお伝えし、悩まなくてはいけないことなのだ、モヤモヤすべきタイミングなのだと知らせます。
その上で、仮に考え抜かずに答えを出そうとする人やグループがいれば、より深く考えるための切り口や視点を提供して、悩み、モヤモヤするようなことを「後押し」しなくてはいけません。
一般的に考えて、悩んだり、モヤモヤすることは、なければない方が良いものであるはずです。
そのため、みなさん自身がシナリオプランニングに取り組む際、自分たちが悩み、モヤモヤし出したら、その状況を客観的に見て、それが「良くない悩み」なのか「良い悩み」なのかを判断することから始めなくてはいけません。
しかし、自分でシナリオをつくりながら、自分でその判断をすることは簡単ではありません。
そのため、上でも書いたようなファシリテーターの役割が必要になります。
このような場面でファシリテーターに求められる重要な役割は、「シナリオプランニングはモヤモヤするものですよ」という安易なことを言うのではなく、その人たちがどういう状況にいるのかを見極め、それを踏まえて必要な働きかけをしていくこと。
ファシリテーターがいるかどうかにかかわらず、シナリオ作成の過程で悩みに遭遇したら、まずは、その悩みがどのような悩みなのかを考えることを試してみてください。
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単に複数シナリオをつくって終わりにしないためにも、プロジェクト等の設計時点からご相談いただくことをお薦めしています。