シナリオプランニングでの戦略オプション検討がうまくいかない原因を考える【Stylish Ideaメールマガジン vol.269】
シナリオプランニングに取り組んだことがあるという方に、その経験についてうかがうと、戦略オプション検討がうまくいかなかった、というコメントをいただくことが良くあります。
そして、「シナリオプランニングは時間がかかる割には使えない、という話になったんですよ」ということを言われます。
しかし、"うまくいかない"という状態の背景には必ずそれを引き起こしている原因があります。
うまくいかなかったという経験を深掘りしたり、私自身がかかわったワークショップを思い返してみると、次の3つのどれかが原因である場合がほとんどです。
(1) 複数シナリオがいまいち
(2) 複数シナリオを元にした課題理解がいまいち
(3) 出てきた戦略オプション案の評価基準が曖昧
ひとつずつ解説していきましょう。
(1)複数シナリオがいまいち
もっともわかりやすい「いまいち」な状態は、複数シナリオの質が良くないという状態です。
コンピュータサイエンスなどの分野で使われる"Garbage in, Garbage out" という表現があります。
「ゴミを入力するとゴミが出力される」という直訳で、転じて質の悪いデータを入力すると、出てくる結果も質が悪いということを意味しています。
シナリオプランニングの取り組みで作成する複数シナリオは、戦略オプションを検討するためのインプットです。
そのため、このインプットの質が良くなければ、それを元に質の良い戦略オプションを考えられるかというと、なかなかそうはいきません。
逆に言えば、質の良い複数シナリオができれば、自然と、質の良い戦略オプションにつながりやすいことは、これまでのさまざまなお客さまとのやり取りでも実感しています。
(ちなみに、このような理由もあって、基礎編+実践編の講座では、まずは質の高い複数シナリオをつくれるようになることに重点を置いています)
そこで、まずは自分たちが作成した複数シナリオにもう一度目を向けてみることをお薦めします。
これと似た「いまいち」な状態として、複数シナリオの質自体は悪いものではないものの、作成した当人が「本当に、こんな未来は起こるのか?」と納得していないという状態があります。
この場合も、そのまま無理に戦略オプション検討に進むのではなく、自分たちが納得でき、かつ、シナリオプランニングの観点から見ても質が高いと言える複数シナリオに仕上げることに取り組みます。
(2) 複数シナリオを元にした課題理解がいまいち
戦略オプションを検討する際、まずは、検討した複数シナリオを元にして、その世界における顧客や社会が、どのような課題を抱えているかを考えます。
この課題理解を十分に深めないままに戦略オプション案を検討してしまうと、結局、普段から自分たちが考えているような案や、既存の製品・サービスなどに結びつけてしまうということが起こります。
そういう状況に陥ることを避けるためにも、以前にご紹介したロジックモデルの考え方なども応用し、まずは社会視点・顧客視点で考えることを徹底してから、自分たちのことを考えてください。
・社会・顧客の不確実性に着目した事業開発その1 <ロジックモデルの活用>
(3) 出てきた戦略オプション案の評価基準が曖昧
最後は、これまでの2つとはやや種類が違います。
いろいろと戦略オプション案を出したあと、出てきたものをどう評価しているのかという観点です。
「戦略オプションがうまく考えられない」という相談をいただく際、出てきた戦略オプションをどう評価しているかとうかがうと、
・何かすごい案が出てきているかどうか
・これまでに想像したこともないものが出てきているかどうか
・イノベーションにつながるようなものが出てきているかどうか
という類の、曖昧な基準でしか考えていない場合がよくあります。
当然、このような曖昧で、漠然とした基準で戦略オプションを評価してしまうと、
「うーん、こう、なんか、もっとスゴいものが出てきてほしいんだよなぁ…」というような漠然とした評価しかできないのは当然です。
では、どのように評価すれば良いのかというと、具体的にはプロジェクトの目的などによって変わってきますが、大きな方針としては、その戦略オプション案で、社会や顧客の課題が解決できているか、ニーズを満たせているか、という観点から判断する、ということです。
社会や顧客に対する取り組みに関連したシナリオプランニングに取り組む限り、ある戦略オプションについて、自分たちが「スゴい」と思うかどうかは二次的なものです。
たとえ自分たちにとっては目新しいものではなくとも、それが誰かの課題を解決し、ニーズを満たすことにつながっていれば、それは意味があるものなのです。
ここまで読んでいただくとわかるとおり、このような判断ができるかどうかというのは、前に紹介した(2)につながる話です。
つまり、(2)の検討が十分にできていない状況では、戦略オプションの評価もできないはずです。
シナリオプランニングを元にした戦略オプション検討がうまくいかない理由を長々と書きましたが、
改めて確認していただきたいのは、シナリオプランニングに取り組めば、自動的に「スゴい」戦略オプションが出てくるわけではないという当たり前のことです。
複数シナリオを考えるのも、戦略オプションを考えるのも、他でもない自分たち自身です。
そのため、自分たちが作成するアウトプットが良い状態でない時には、それをつくる過程で、自分たち自身に改善すべき点があるはずです。
シナリオプランニングに限らず、何かの手法やツールを使う場合には、手法やツールを活用することをとおして、自分たち自身の状態を再確認してみてください。
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単に複数シナリオをつくって終わりにしないためにも、プロジェクト等の設計時点からご相談いただくことをお薦めしています。